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蓮の花のインレイ彫刻 – 精緻な装飾の誕生
ヴァイオリンの未完成のボディに、繊細で象徴的な蓮の花のインレイを施す作業が始まる。すべては最初のデザインから。紙の上に精密なスケッチを描き、花弁の配置や曲線のバランスを決める。蓮の花は純粋さと再生を象徴し、このヴァイオリンに特別な魂を宿らせる存在となる。
次に、デザインをボディの表面に正確に転写し、慎重に彫刻を開始する。細い彫刻刀を使い、木材の繊維に沿うように少しずつ削り出す。力の加減を絶妙に調整しながら、花弁の優雅な曲線を形作る。わずかなミスも許されないため、一刀ごとに集中力を高める。
花の中心部分には、細かな陰影をつけるための彫り込みを施し、奥行きのある立体感を表現。さらに、葉や茎の部分も滑らかに仕上げ、自然な流れを持たせることで、まるで生きているかのような美しさを引き出す。
インレイの彫刻が完成すると、慎重に磨き上げ、表面の細かなおうとつを整える。次の段階では、エイジングを施したオイルニスによって、まるで時を経た名器のような風格を与える予定だ。
ヴァイオリンが完全な姿へと近づく中、蓮の花の装飾は、その音色と共に、この楽器が唯一無二の存在であることを物語るだろう。

至高のオイルニス仕上げ – 響きが生まれる最終工程
精巧な蓮の花のインレイが完成し、ヴァイオリンに命が吹き込まれた。次なる工程は、音色と美しさを極限まで高める オイルニスの塗布 である。この仕上げは単なる外観の美化ではなく、楽器の音響特性を決定づける 最も重要な工程の一つ であり、熟練の職人技と深い知識が試される瞬間だ。
私のヴァイオリンには、市販のニスではなく、 門外不出の特別なレシピ に基づいて調合した 完全手作りのオイルニス を使用する。このニスは、 厳選された天然樹脂と希少なオイル を独自の配合で長期間熟成させたもので、音響効果を最大限に引き出しながら、深みのある輝きを楽器に与える。これこそが、私のヴァイオリンにオリジナルの音色と風格をもたらす秘訣である。
オイルニスの塗布 – 一刀彫のような精密な技術
筆に含ませたオイルニスを慎重にヴァイオリンのボディに塗布する。 一層ごとに極めて薄く均一に広げる ことで、楽器の響板が持つ自然な振動を妨げることなく、最大限の共鳴を引き出す。 手作業で何層にも重ねられるこのプロセスは、時間と経験が生み出す極致の技術 である。
ニスの乾燥を待つ間、ヴァイオリンは 特別なブラックライト照射室 に移される。ここでは 紫外線を用いた熟成工程 が施され、ニスが木材と融合しながら硬化していく。この段階によって、 ニスが単なる表面のコーティングではなく、木材の繊維と一体化し、独特の深みと透明感を持つ仕上がりとなる。まるで長い年月をかけて自然に熟成された銘器のような質感を生み出すのだ。
完成へ – 音色の最終調整を待つのみ
こうして、特別に調合されたオイルニスによって仕上げられたヴァイオリンは、 最終工程へと進む準備が整う。
最後に弦を張り、魂を吹き込むことで、ついにこのヴァイオリンはその音を奏でる準備を完了する。
伝統と革新が融合したこの楽器が、どのような音色を響かせるのか――その瞬間が待ち遠しい。
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最終仕上げ – 音響性能を引き出す完成工程
ブラックライトによる硬化プロセスを経て、すべてのオイルニス層が均一に安定した。
これにより、表面は適度な強度と柔軟性を持ち、振動伝達を妨げることなく、音響特性を最適化する理想的な仕上がりとなった。
しかし、ここからが 最も重要な最終調整 である。ヴァイオリンに、時を経た銘器のような特性を与えるため、エイジング処理をほどこして最終の調整に入る。
エイジング加工-ヴィンテージの風格を再現
オイルニスの自然な収縮と木材の繊維構造の変化を考慮し、ヴィンテージ楽器特有の質感を再現する。
この工程では、単なる外観の再現にとどまらず、音の響きの伝達効率を向上させるための細かな調整を加える。また、ボディ表面の微細な凹凸や木材の作りに沿い浸透させるプロセス により、ニスと木材の一体化を促進し、音の拡散と深みを最大限に引き出す。これにより、新作楽器でありながら、長年弾き込まれたような音響特性を持つ、温かみのある成熟した音色の実現に近づく。
G線が生み出す圧倒的な低音
すべての調整が完了し、弦を張り、魂柱と駒のセッティング を行う。共鳴が最適なバランスを持つよう、駒の位置を微調整し、プレッシャーバランスを最適化する。
そして、弓をG線に軽く当てる。
豊かで密度の高い低音が空間に広がる。
G線の振動は、表板と裏板を通じてボディ 全体に伝達 され、深く響く低音域と明瞭な倍音成分 を生み出す。
とくに、オイルニスの最適な柔軟性が、最大限の音響投射 を可能にし、力強くも洗練された響きを作り出す。
トリオ, Violin , Cello & Viola
Mario Cesar Y.


ヴィオラ
Mario Cesar Y.
Viola 44cm
Model Nicollo Amati
Romanov
バイオリン
Mario Cesar Y.
Model Antonio Stravarius
Messiah



バイオリンへのパーフリングの精密な埋め込み作業

バイオリンのパーフリング(purfling)の挿入は、楽器の耐久性と美しさを高める重要な工程である。
この作業は、慎重に掘り込まれた溝に対して、正確な寸法に加工されたパーフリングを挿入し、接着することで行われる。パーフリングは単なる装飾ではなく、木材の割れを防ぎ、構造的な強度を向上させる役割も担う。
伝統的な製作技法では、メイプル、エボニー、ポプラなどの異なる木材を組み合わせた三層構造のパーフリングが用いられる。均一な深さと幅の溝を掘るために、専用の工具を使用し、慎重に手作業で仕上げる。
パーフリングを溝にはめ込む際は、適切な接着剤を使用し、木材の膨張や収縮を考慮しながら、完璧なフィット感を実現することが求められる。
この工程はヴァイオリンの完成度を左右する繊細な作業であり、職人の経験と技術が試される。
適切に施されたパーフリングは、楽器全体のバランスを整え、音響特性にも微細な影響を与えるため、高度な精密性と芸術性が求められる。
インレイの精密な溝を丹念に彫り込み、装飾のための繊細な土台を形成する。

インレイのデザインが丁寧に彫刻され、エボニーのペーストを埋め込むための繊細な溝が整えられていく。一つひとつの彫刻には精密な技術が求められ、模様が優雅でありながらも構造的に完璧に仕上げられる。
エボニーの深い黒と木材の自然な色合いのコントラストが、美しい視覚的効果を生み出し、楽器の芸術性を高める。細部までこだわったこの作業は、単なる装飾ではなく、ヴァイオリンの個性と品格を際立たせる重要な工程である。