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バイオリン製作の旅 - 静かなる強さ、ライニングの秘密


    バイオリンの内側にライニングを接着している様子。見えなくなる部分こそ、音と強さを支える大切な工程です。
バイオリンの内側にライニングを接着している様子。見えなくなる部分こそ、音と強さを支える大切な工程です。

バイオリン製作の魔法 - 内側補強「ライニング」の装着

バイオリン製作の旅は、少しずつ、でも確実に進んでいます。

前回、慎重に曲げた側板をブロックに接着し、バイオリンの形が目に見えるようになりました。

あの瞬間の喜びは、今でも指先に残っています。でも、まだ終わりではありません。今回は、その側板の内側に「ライニング」と呼ばれる細い木のパーツを取り付けていく工程です。

これは、見た目には小さな作業ですが、とても大切なのです。


小さな木の力——ライニングの役割

ライニングは、側板の内側に貼り付ける細い木片のことです。これがあることで、側板が強くなり、これから取り付ける表板や裏板もしっかり支えられるようになります。

バイオリン製作において、ライニングがあるかないかで、バイオリンの音の響きも変わってくるのです。

私は柔らかくて曲げやすい「柳(やなぎ)」の木を使います。

この木は音の振動をやさしく伝えてくれる、信頼できる仲間のような存在です。


手の中で感じる温度と呼吸

ライニングは、そのままでは側板のカーブに合いません。だから、水で少し濡らしてから、火で温めた鉄の棒(ベンディング・アイロン)を使ってゆっくりと曲げていきます。

熱すぎると焦げてしまうし、水が少ないとすぐに割れてしまう。

でも、木がちょうど良い柔らかさになる瞬間があるのです。

そのタイミングは、目ではなく、指先の感覚でつかみます。

「今だ」と思った瞬間に、そっと力を入れて曲げていく。

まるで木と会話しているような時間です。呼吸を合わせるように、一緒に形を作っていきます。


クランプで支える、静かな戦い

曲げ終わったライニングに、伝統の膠(にかわ)を塗って、側板の内側に貼り付けます。そのあと、小さなクランプをたくさん使って、しっかり固定していきます。

強すぎても、弱すぎてもダメ。木がちょうどよくくっつくように、力の加減を調整します。

この工程は、表からは見えなくなる部分。

でもだからこそ、丁寧にやる意味があるのです。

人の目に触れなくても、バイオリンは全部を覚えている。


静けさの中で生まれる形

クランプをつけ終わったら、あとは待つだけ。膠がゆっくりと乾き、木と木が一つになるまで、静かに時間が流れていきます。

この時間が、私はとても好きです。

表には見えないけれど、確かにバイオリンの「心」が育っている気がするのです。

クランプを外し、ライニングをそっと指でなぞると、そこには確かな手ごたえがあります。

「よし、ここまで来た。」

でも、まだまだ先は長い。

この先には、いよいよバイオリンの“顔”とも言える表板の製作が待っています。

そこに、音の命が宿るのです。

この旅は、簡単ではありません。

でも、一歩一歩、木と向き合いながら進むたびに、自分自身も変わっていく気がしています。

どうか、次回も読みに来てください。まだまだ物語は続いていきます。


 
 
 

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