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彫刻された音の地形図 ―バイオリン アーチが奏でる静かな情熱


    手作業で削り出されたバイオリン表板の美しいアーチライン
手作業で削り出されたバイオリン表板の美しいアーチライン


    手作業で削り出されたバイオリン表板の美しいアーチライン
手作業で削り出されたバイオリン表板の美しいアーチライン

バイオリン製作の魔法 – アーチの彫刻、響きを育てるかたち

輪郭が整った木材は、ついに平面から立体へと姿を変え始めます。ここから始まる「アーチ削り」の工程は、バイオリンの響きを決定づける最も重要なステージのひとつです。

トップとバック、それぞれの板に適した美しいカーブ=アーチを作り出す作業。この作業には、単なる“削る技術”ではなく、木と音の両方に対する繊細な観察力と経験が求められます。


アーチを描き出す、最初の削り

最初に行うのは、中央部から削り始めて、おおよその曲面を浮かび上がらせること。最終的な高さはモデルによって異なりますが、トッププレートではおよそ15ミリ前後、バックプレートではやや低く設定するのが一般的です。

この段階では、鉋(かんな)やグージと呼ばれる彫刻刀のような道具を使い分けながら、厚みのバランスとラインの自然さを感じ取りながら進めていきます。左右対称に削っているつもりでも、わずかな違いが後に大きな音響差となって表れるため、何度も手を止めて、光の反射や指先の感覚を頼りに確認します。

削り方には決まった“正解”はありませんが、目指すべきアーチの理想像は常に頭の中に置きながら、木と対話を重ねていくような作業です。


外側のアーチに込める「強さ」と「しなやかさ」

トッププレートは、音を直接受け止めて響かせる場所です。そのため、中央にある程度の厚みと張りを残しつつ、エッジにかけて滑らかに落としていく形が求められます。このラインの作り方によって、音の反応や豊かさ、さらには弾力が変わってきます。

バックプレートの場合、響きというよりも反射と支えの役割が大きいため、ややしっかりとしたアーチが好まれます。ここでも、必要以上に反らせてしまえば音が跳ねすぎてしまい、逆に低すぎると音に重さがなくなる。まさに紙一重の調整です。

この外側のアーチを仕上げる過程では、まだ板は厚く、重量もあります。しかし、この段階で手を抜いてしまえば、後の響きに必ず現れてしまう。それゆえに、この作業には妥協が許されません。


光で見る、手で触れる、木が語り出す瞬間

アーチのラインを整えていく中で、私が大切にしているのは「見た目」と「触れた感触」の両方です。斜めから光を当てると、わずかな凹凸や歪みが浮かび上がってきます。そこに刃を当てて整える。そしてまた手で撫でて、流れの自然さを確かめる。

この繰り返しが、やがてバイオリンの個性となってあらわれてくるのです。


次回への準備:内側のアーチと厚み調整の世界へ

こうして完成した外側のアーチは、バイオリンの姿を大きく形づくる土台になります。そして次に始まるのが、内側からアーチを削り出し、響きをコントロールする工程です。

ここからは、数ミリ単位、いや〇.〇ミリの世界での作業になります。次回は、厚みの測定、内側アーチの彫刻、そして「音が通る道」を作るための繊細な調整について詳しく紹介します。

次回はいよいよ、木の内側に潜む響きを掘り起こしていく「内側アーチの削り」へと進みます。どうぞお楽しみに。

 
 
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