バイオリン製作|削りすぎた木は戻せない — 内側削りと板厚調整


外側のアーチが整った板を裏返すと、ここから仕事の感覚が変わります。
バイオリン製作で次に行うのが、表板・裏板の内側削りと板厚調整です。
この段階では、まだ板の内側に多くの木が残っています。そこから余分な部分を削り、外側に作ったアーチを意識しながら、少しずつ必要な厚みへ近づけていきます。
削れば、板は確実に軽くなる。
でも同時に、ひとつだけ絶対に変わらないことがあります。
一度削った木は、もう戻せません。
だから最初は大きく。厚みに近づくほど、慎重に。
この切り替えが、内側削りではとても重要になります。
バイオリン製作で始まる、内側削りと板厚調整
最初はガウジを使い、内側に残っている余分な木を大きく落としていきます。
この時点ではまだ十分な厚みがあるため、いきなり最終的な板厚を狙うわけではありません。
外側のアーチの形を頭に入れながら、内側から少しずつ木を取り除いていきます。
ガウジを入れるたびに、大きな木屑が次々と出てきます。
見ているだけなら単純に掘っているように見えるかもしれません。
でも、木はどこでも同じようには削れません。
木目の方向が変われば、刃の入り方も変わります。
特に裏板に使うメープルは、場所によって刃の感触が変わることがあります。
力だけで押すのではなく、刃がどう木に入っているかを見る。
必要なら削る方向を変える。
この段階では、目で木を見るだけでなく、刃を通して木の状態を感じながら進めます。
削るほど、板の重さと反応が変わっていく
削り始めたばかりの板は、まだしっかりとした重さがあります。
手に持った感覚も、まだ「楽器の板」というより、厚い木の板に近い。
そこから内側の木を落としていくと、少しずつ軽くなっていきます。
持ったときの感覚が変わる。
軽く叩いたときの反応も変わる。
外から見た形はほとんど同じでも、内側では確実に板の状態が変わっています。
完成したバイオリンでは見えなくなる場所ですが、製作途中を見ると、その変化がよく分かります。
厚い一枚の木が、少しずつ「振動するための板」へ変わっていく。
ここは、バイオリン製作の中でも変化を実感しやすい工程のひとつです。
ガウジの次は、豆鉋で少しずつ整える
ある程度まで木を落としたら、今度は豆鉋を使います。
ガウジで大きく削っていた段階から、削る量を少しずつ小さくしていきます。
ここからは、勢いよく木を落とす仕事ではありません。
少し削る。板を見る。厚みを確認する。また少し削る。
この繰り返しになります。
作業が進むほど、削っている時間よりも、確認している時間のほうが増えていきます。
まだ削れるからといって、削っていいとは限りません。
削れることと、削るべきことは別です。
厚みに近づくほど、この判断が重要になります。
板厚調整は、全部を同じ厚みにする仕事ではない
表板や裏板は、全面を同じ厚みに仕上げるわけではありません。
場所によって残す木の量を変えながら、全体のバランスを作っていきます。
そのため、製作中は板厚を何度も確認します。
ただし、数字だけを合わせれば終わりという仕事でもありません。
同じスプルースでも、同じメープルでも、一枚ずつ木の性格は違います。
重さも違う。硬さも違う。刃を入れたときの感触も違う。
寸法を確認することは大切です。
でも同時に、今目の前にある木がどんな状態なのかを見ることも必要です。
図面や数値だけでは終わらない。
そこに、手工製作の面白さがあります。
バイオリン工房では、最後の数ミリほど手が止まる
内側削りが進むほど、一度に削る量は少なくなります。
板を持ち上げる。厚みを見る。指で触る。もう一度確認する。
そして、必要なところだけを少し削る。
大きく木を落としているときよりも、最後の数ミリを確認している時間のほうが長く感じることがあります。
木を削る技術も大切です。
でも、それと同じくらい重要なのが、
どこで手を止めるか。
という判断です。
完成すれば、この内側のほとんどは見えなくなります。
それでもバイオリン工房では、見えなくなる場所に何度も手を入れ、確認を重ねます。
完成した楽器からは見えないところに、製作中の判断が積み重なっています。
次のバイオリン製作工程は、f字孔
外側にアーチを作り、内側から余分な木を取り除き、板厚を整える。
ここまで来ると、厚かった一枚の木がかなり楽器らしい状態になってきます。
そして次の工程では、表板にバイオリンを象徴する形が入ります。
f字孔です。
f字孔が入ると、表板の印象は一気に変わります。
ここまでただの板だったものが、一目で「バイオリン」と分かる顔になっていきます。
次回は、f字孔の位置を決め、形を写し、実際に切り出していく工程です。





